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VPAT / ACRの4つの版:WCAG版・508版・EU版・INT版の違いとそれぞれの法的な背景

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前回の記事「VPAT / ACRと日本の検査方法の違い」では、米国発のVPAT / ACRという報告形式と、日本で行われてきたJIS X 8341-3の試験との考え方の違いを整理しました。

今回はその続きとして、VPATの「版(Edition)」の話をします。
VPATのテンプレートを配布しているITI(Information Technology Industry Council)は、同じVPAT 2.5RevでもWCAG版・508版・EU版・INT版の4種類を用意しています。海外の取引先から「VPATを出してほしい」と言われたとき、どの版を出せばよいかは相手がどの法律・規格の下で調達しているかで決まります。

この記事では4つの版の違いをそれぞれの背景にある法制度とあわせて整理します。

VPATとACRのおさらい

  • VPAT(Voluntary Product Accessibility Template)は、ITIが配布する「空のテンプレート」です。
  • ACR(Accessibility Conformance Report)は、そのテンプレートに評価結果を記入した「完成した報告書」です。

製品(Product)単位で作成し、達成基準ごとにSupports(適合) / Partially Supports(一部適合) / Does Not Support (不適合)/ Not Applicable(該当なし)の4段階で評価し、Remarksに根拠を書きます。「適合証明書」ではなく、できていることとできていないことを透明に開示する文書である、という点は前回の記事のとおりです。

なぜ版が4つあるのか

VPATはもともと米国連邦政府のICT調達のために作られました。その後、EUが独自のアクセシビリティ規格(EN 301 549)を整備し、W3CのWCAGも2.1、2.2と改訂が続きました。そのため「どの規格に対して答えるか」で表の中身を変える必要が生じ、ITIは版を分けて配布するようになりました。

現在の最新版はVPAT 2.5Rev(2025年4月)です。4つの版の構成は次のとおりです。

版

答える対象

載るWCAGの版

WCAG以外の章

主な相手

WCAG版

WCAG 2.x

2.0 / 2.1 / 2.2

なし

特定の法制度に縛られない民間取引、国内取引

508版

改訂508条(米国)

2.0 のみ

改訂508条 第3〜6章

米国連邦政府とその請負事業者

EU版

EN 301 549(EU)

2.0 / 2.1

EN 301 549 第4〜13章

EU市場向けの製品・サービス

INT版

上記すべて

2.0 / 2.1 / 2.2

508の章 と ENの章 の両方

複数の市場に展開する製品

WCAGの達成基準の表はどの版にも入っていますが、載っている版が違います。
508版にはWCAG 2.2の達成基準の行がそもそも無くEU版には2.1までしかありません。
これは、それぞれの法律・規格が参照しているWCAGの版をそのまま反映しているためです。

以下、版ごとに背景を見ていきます。

WCAG版:法律ではなく技術標準に対して答える

WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)はW3Cが策定するWebコンテンツの技術標準で、それ自体は法律ではありません。
しかし後述する米国の508条もEUのEN 301 549も、日本のJIS X 8341-3もWebコンテンツの要件はWCAGを参照して定めています。つまりWCAGは各国の法制度の「共通の土台」です。

WCAG版のVPATはこの土台に対して直接答える版です。
WCAG 2.0・2.1・2.2のすべての達成基準(レベルA・AA・AAA)が表に載っており法律固有の章はありません。

向いている場面

  • 米国連邦政府でもEU市場でもない、民間企業同士の取引で「アクセシビリティの状況を開示してほしい」と言われたとき
  • 国内の取引でグローバル標準の形式の報告書を求められたとき
  • どの版を出せばよいか判断がつかないとき(まずWCAG版を作り、必要に応じて508版・EU版を追加できます)

法律が直接WCAGを参照している例

米国では、2024年4月のADA(障害を持つアメリカ人法)第II編の規則改正で、州・地方政府(州立大学や公立図書館などの公共施設を含む)のWebコンテンツにWCAG 2.1 レベルAAが義務付けられました。
連邦資金を受ける大学にはリハビリテーション法504条の規則も同じWCAG 2.1 レベルAAを求めています。
508版のテンプレートに載るWCAGは2.0までなので、これらの機関との取引でACRを求められた場合はWCAG版(またはINT版)で2.1への適合を示すのが適切です。
米国の大学はソフトウェア導入時にVPATを求めることが多く、州法が508条を参照している州では508版を求められることもあります。

508版:米国連邦政府の調達要件に答える

法的な背景

リハビリテーション法第508条(Section 508)は、米国の連邦政府機関が調達・開発・利用するICT(情報通信技術)に対して、障害のある職員や市民が利用できることを義務付ける法律です。
1998年の改正で現在の形になり、連邦調達規則(FAR)のSubpart 39.2によって、調達の計画段階からアクセシビリティ要件を組み込むことが求められています。

2017年1月には改訂508条基準(Revised Section 508 Standards)が最終規則として公布され2018年1月18日に施行されました。
この改訂でWebコンテンツの要件としてWCAG 2.0 レベルA・AAが参照により取り込まれました。
508版のテンプレートにWCAG 2.0の行しか無いのは、法律が参照しているのが2.0だからです。なお米国アクセスボードは2025年に基準の更新に向けた情報提供要請(RFI)を出しており、将来WCAG 2.2への更新が見込まれますが、現時点の法的要件は2.0です。

テンプレートの中身

508版にはWCAG 2.0の表に続いて改訂508条の章ごとの表が付いています。

  • 第3章 機能性能基準(Functional Performance Criteria):視覚・聴覚・発話・操作・認知など、利用者の特性ごとに「使えるか」を答える
  • 第4章 ハードウェア
  • 第5章 ソフトウェア:プラットフォームのアクセシビリティサービスとの連携、オーサリングツールなど
  • 第6章 サポート文書とサービス:製品のアクセシビリティ機能についての文書やサポート窓口が、アクセシブルな形で提供されているか

WebサイトやWebアプリケーションの場合、第4章のほとんどと第5章の多くは「Not Applicable(該当なし)」になりますが、なぜ該当しないのかを理由付きで書く必要があります。
たとえば第5章ではWebアプリケーションは508条上はソフトウェアに分類されるもののプラットフォームのアクセシビリティサービスを使わないものは501.1の例外に当たる、といった説明を添えます。
ここは508条の構造を知らないと書けない部分でWCAG版との大きな違いです。

誰に求められるか

508条もFAR(連邦調達規則)もベンダーにVPATの提出を直接義務付けてはいません。
GSAの調達ガイダンスが連邦機関に「入札時にACRを要求する」よう求めているため、実際には以下のような場合に入札の提出条件となっています。

  • 連邦政府機関に直接納入する場合
  • 連邦政府の案件を受注している米国企業に製品を提供する場合(サプライチェーンの一部になる場合)

検査した人の資格が問われる場合

連邦政府の調達では、ACRに加えて「誰が、どの方法で検査したか」が問われることがあります。

米国国土安全保障省(DHS)は、508条の適合を判定ぶれなく検査するための手順としてTrusted Tester Processを定め、その手順を習得した人をTrusted Testerとして認定しています。この手順を採用している機関は、認定Trusted Testerによる検査結果しか受け付けません。

リベロジックにはTrusted Tester資格の保有者が在籍しており、この手順による検査と508版ACRの作成に対応できます。

EU版:EN 301 549と欧州アクセシビリティ法に答える

法的な背景

EN 301 549は、EUの標準化機関が策定した「ICT製品・サービスのアクセシビリティ要件」の欧州規格です。
米国の508条が「法律」であるのに対して、EN 301 549は「規格」で、EUの複数の法律がこの規格を参照しています。

  • Webアクセシビリティ指令(Directive 2016/2102) — 公的機関のWebサイトとモバイルアプリに適用。EN 301 549がその整合規格です。
  • 欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act、EAA。Directive 2019/882) — 民間の製品・サービスに適用。2025年6月28日から適用が始まりました。電子商取引、銀行サービス、電子書籍、旅客輸送、電気通信サービス、OSやコンピュータ、ATMや券売機などが対象です。

EAAで特に重要なのはEU域外の事業者も対象になることです。
EUの消費者に対して対象のサービスを提供していれば、事業者がどこの国にあるかは問われません。
日本の企業がEUの消費者向けにECサイトやSaaSを提供している場合も対象です(従業員10人未満かつ年間売上高または貸借対照表合計200万ユーロ以下の零細企業は、サービスについて免除があります)。

EAAとVPATの関係

米国の508条と同じく、EAAもVPATやACRの提出を法律で義務付けてはいません。
EAAが事業者に求めているのは、製品についてはEU適合宣言とCEマーキング、サービスについては附属書Vに基づく「どのようにアクセシビリティ要件を満たしているか」の情報を利用規約などで公開することです。

一方で、「EN 301 549にどう適合しているか」を具体的に示す実務上の手段として、EU版のACRが広く使われています。
EUの顧客企業がベンダーを選定する際に「EN 301 549に対するACRを出してほしい」と求めるのは、米国の調達と同じ構図です。
またEAAがサービス提供者に求める「自社のサービスがどのようにアクセシビリティ要件を満たしているかの説明」を書く際にも、達成基準ごとの適合状況がまとまっているACRがあれば、その内容をそのまま根拠にできます。

テンプレートの中身

EU版には、WCAG 2.0・2.1の表に続いて、EN 301 549の章(規格では「箇条」)ごとの表が付いています。

  • 第4章 機能性能:508条の第3章に相当
  • 第5章 一般要件、第6章 双方向音声通信を伴うICT、第7章 映像機能を伴うICT、第8章 ハードウェア
  • 第9章 Web:WCAGの表を参照
  • 第10章 非Web文書、第11章 ソフトウェア、第12章 文書とサポートサービス、第13章 リレーサービスと緊急サービスへのアクセス

Webサービスの場合、ここでも多くの章が「Not Applicable」になりますが508版と同様に理由付きで答えます。

規格の改訂に注意

EN 301 549は現在、v3.2.1(WCAG 2.1ベース)が整合規格として参照されています。
一方で、EAAに対応するために改訂されたv4.1.1(WCAG 2.2ベース)が2026年8月に採択され、9月に公開されました。
EU官報に整合規格として引用されれば、こちらが「適合の推定」を与える規格になります。
ITIのEU版テンプレートもこれに合わせて更新されると見込まれます。

INT版:一つの文書で全部に答える

INT版(International Edition)は、WCAG版・508版・EU版を一つにまとめた版です。
WCAG 2.0・2.1・2.2のすべての達成基準の表に、改訂508条の第3〜6章と、EN 301 549の第4〜13章の両方が続きます。

向いている場面

  • 米国とEUの両方に展開している製品で、顧客ごとに別の版を用意したくないとき
  • グローバルに提供するSaaSで、どの国の調達担当者が見ても必要な情報が揃っている文書を一つ持っておきたいとき

注意点

文書が長くなります。
WCAG 2.0〜2.2の全達成基準の表に続いて改訂508条(第3〜6章)とEN 301 549(第4〜13章)の章表が付き、Webサイトの案件でも合わせて200行以上に回答と理由を書く必要があります。

日本の位置づけ:日本にはVPATを求める法律はない

日本では、JIS X 8341-3:2016(内容はWCAG 2.0と一致)がWebアクセシビリティの規格です。
2024年4月に改正障害者差別解消法が施行され、民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化されましたが、米国の508条やEUのEAAのように「調達時にアクセシビリティの適合報告書を出す」ことを法律で求める仕組みはありません。

それでもVPATが日本の企業に関係するのは次のような場面です。

  • 海外の顧客との取引:米国連邦政府やEU企業に製品・サービスを提供する、または米国・EU企業のサプライチェーンに入る
  • 海外のSaaSを選定する:国内企業が海外製品を導入する際に、ベンダーのACRを読んで評価する
  • 国内取引でもグローバル標準の形式で開示したい:前回の記事でご紹介した日本語版VPATがこの用途です

つまり日本では、国内向けには日本語版のVPAT、海外向けにはITI公式テンプレートのVPAT、という使い分けになります。

※ JIS X 8341-3は改正が進んでいます。WCAG 2.2と同じ達成基準になる方針で、2026年度中の公示が見込まれています。これが公示されると、国内のJIS準拠の試験と、海外向けのWCAG版・INT版のVPATが同じ達成基準の集合で評価できるようになり、一度の検査で国内外の両方の報告書を作る土台が揃います。リベロジックの診断は現在もWCAG 2.2で評価しているので、改正後もそのまま移行できます。

どの版を選べばよいか

相手・市場

お勧めの版

米国連邦政府、またはその請負事業者

508版

EU市場向けの製品・サービス(EAAの対象、EU企業の調達)

EU版

米国とEUの両方

INT版

特定の法制度に縛られない民間取引、国内取引

WCAG版(国内向けは日本語版も)

迷っている

まずWCAG版。検査結果は共通なので、あとから508版・EU版を追加できます

リベロジックでは4つの版すべてに対応しています

リベロジックのアクセシビリティ診断では、ITIの公式テンプレート(VPAT 2.5Rev、2025年4月版)を使ったWCAG版・508版・EU版・INT版のACRを発行できます。
IAAP認定のWAS(Webアクセシビリティスペシャリスト)およびTrusted Tester資格保有者が、確実なアクセシビリティチェックを実施いたします。

対象はWebブラウザで利用するWebサイト・Webアプリケーションです。 ハードウェア、OSやデスクトップ・モバイルのネイティブアプリなどのソフトウェア製品には対応していません。508版・EU版・INT版のハードウェアやソフトウェアの章は、Web製品として該当しない理由を記載する形になります。

  • 検査はWCAG-EMに基づくサンプリングで行い、その結果からどの版でも作成できます。版を追加しても検査をやり直す必要はありません。
  • 外部の第三者として評価し、評価方法の欄にその旨と検査期間を明記します。ベンダー社内だけで評価したACRよりも、評価の客観性を示しやすくなります。
  • 508条・EN 301 549の法律固有の章は、Webサイト・Webアプリケーションの案件向けに回答と理由を整えて記載します。機能性能基準(508 第3章 / EN 第4章)は、WCAGの達成基準ごとの判定結果から導出します。文書・サポートに関する章(508 第6章 / EN 第12章)は、お客様のヘルプページや問い合わせ窓口の状況を伺って記載します。
  • 納品はdocxとPDFの両方です。社内で追記・編集してから公開したい場合はdocxを、そのまま提出する場合はPDFをお使いいただけます。

まとめ

  • VPATにはWCAG版・508版・EU版・INT版の4つの版があり、違いは「どの法律・規格に対して答えるか」です。
  • 508版は米国連邦政府の調達(改訂508条、WCAG 2.0)、EU版はEN 301 549と欧州アクセシビリティ法(WCAG 2.1、今後2.2へ)、WCAG版は法制度に依らない技術標準、INT版はその全部です。
  • 日本にはVPATを求める法律はありませんが、海外取引やサプライチェーンの中で求められる場面は増えています。
  • リベロジックでは、一度の検査から4版いずれのACRも発行できます。

海外の取引先からVPATやACRの提出を求められてお困りの方、どの版を出すべきか判断がつかない方は、ぜひご相談ください。お客様の事業展開に合わせて、必要な版と言語の組み合わせをご提案します。

この記事を書いた人

DTPからWebの世界へ飛び込み、気づけばマークアップもフロントエンドもディレクションもアクセシビリティもこなす"技の仙人"。リベロジック創業期からマルチに活躍し、今や社内の生き字引的存在。最近は「アクセシビリティ対応、もっとAIに頼れないかな?」と、プロンプトを駆使した効率化の探究にハマり中。技術も思考も、まだまだ進化中

二俣 歩

IAAP認定ウェブアクセシビリティスペシャリスト(WAS) / マークアップエンジニア / フロントエンドエンジニア / ウェブディレクター

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ケーススタディ

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